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従業員を辞めさせたい!パワハラ上司、働かない社員は解雇できる?
2019/09/08
(最終更新日:2024/07/08)
その解雇、ちょっと待った!!
人の集まりである組織においては予想もしなかった事件や様々なトラブルが発生します。近年は特にハラスメント問題がSNSで炎上するなど人事トラブルの筆頭となりつつありますが、アルバイトによる不適切な動画投稿「バイトテロ」や全く働く気のない「モンスター新入社員」から、人事権を匂わせて若い入社希望者へ性的関係を強要する「ブラック人事」など雇用問題は常に紙面を賑わせています。もしも自社で同様の事故が起きたらどのように対処するでしょうか。経営者にとって『人』の問題は尽きることのない永遠のテーマといえますが、近年はプロ人事でも対応できないような様々な角度からトラブルが報告されています。当事務所でも、
✅何度指導しても同じミスを繰り返す新入社員
✅基本的なビジネスマナーが身についていない中途社員
✅履歴書や面接時にアピールしていた能力が実は無かった中途社員
✅会社の不満や批判をSNSで発信しているベテラン社員
✅業績好調を自分の実力だと自己評価して偉ぶる営業社員
✅自分で決めた仕事以外他人に協力しない事務社員
✅隠れた病歴や妊娠を隠して入社した中途社員
✅学歴、経歴を詐称していた幹部候補社員
✅上司の指導に反抗して従わない新入社員
✅社内で不倫している管理職社員
✅公然とハラスメントを繰り返している部門長
✅生活のために残業時間を伸ばしている平社員
など、挙げればきりがないほど事業主から「解雇したい従業員」の相談を扱ってきました。
確かに悪質な場合は他の従業員にとってもマイナス影響があり、辞めさせるべき事業主の理由は十分に理解できますが一方で、
☑部署を変えると劇的に働くようになった
☑規則を整備して教育するとよく働くようになった
☑指導方法を変更すると向上心が目に見えて伸びた
☑事情を聴くと別の理由があった
など、簡単な対策で改善することもよくあることです。
感情的になって解雇が頭をよぎることはどの経営者にもあることですが、一度解雇の抱える問題について理解し、対策を冷静に検討してみましょう。
まず、解雇するには高いハードルがある!
日本の法律上解雇が簡単に認められることはありません。いわゆる『解雇権乱用の法理』を満たさず解雇を行い紛争に発展した場合、会社がその何倍もの損害を被ることになります。一般的に解雇したい場合であってもまずは退職勧奨(いわゆる肩たたき)を行いますが、退職勧奨は自主的な退職を促すものであり、『退職強要』との境界線は受け取る側によるため、行為に違法性があった場合は解雇同様に不当解雇として訴えられるリスクを抱えます。退職勧奨は大変難しく、解雇関連法律を十分理解しないまま感情的に怒鳴る、大声を出すなどしてしまえば退職強要になるため、例えば話し合いの記録を残すのは当然として、複数で話をするなど対策を講じる必要があります。
退職勧奨は従業員に対する退職金の積み増しや残有給休暇の全消化+αなど、労使間の交渉となるため、相互が合意に至った場合には「退職合意書」の作成と併せて「債権債務不存在確認書」などで後々再燃しないように対策しておく必要があります。
どうしても辞めてほしい従業員が退職勧奨を受け入れない場合は解雇するしかありませんが、もう一度解雇について基本をおさらいしておきます。
《労働契約法16条》
解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする。
解雇(退職)の種類
自己都合退職
いわずとも知られた自己の都合による退職を言います。
整理解雇
経営上の不振などの理由で人員削減を行うための手続きを言い、いわゆるリストラです。
但し整理解雇が認められるためには過去の最高裁判例によって大きく4つの要件があるとされ、通常の解雇と扱われないよう手順の確認が必要となります。
《整理解雇の4要件》
裁判例では以下の4要件を考慮して整理解雇の正当性が判断されることが通常となっています。
①人員削減の必要性
経営不振等によって近い将来倒産が確実である場合など、決算状態や経営指標上の指数をもってどれくらいの人員削減が必要か客観的な状況で判断されます。過大な役員報酬を据え置いたままや経営陣の使い込みによる経営不振の場合は整理解雇と認められませんが、通常の企業であれば債務超過のような重大な経営危機でなくても収益の悪化が見込まれるようであればおおむね必要性は認められます。
②解雇回避努力
解雇以外の方法、例えば配置転換や出向、希望退職の募集や『非正規社員の解雇』など、信義則上の努力を行っているかどうかが判断されます。他に方法は無かったのか、議事録などで検討した記録を残しておくと評価が高まります。パワハラ上司などへは社内でハラスメント防止研修を受講させておくことも、のちの解雇手続きで争いとなった場合に「研修によって矯正プログラムを実施したものの、改善されなかった」ことが主張できるため効果的です。
【参考になる裁判例】セクハラ行為による懲戒処分を不服として管理職者が会社を相手取った訴訟では、会社は全員参加の研修など適切な防止措置を実施していたことが評価され、懲戒処分が有効とされた(海遊館事件最判平成27年2月26日)
③人員選定の合理性
整理解雇の対象者は客観的に、合理的に選定しなければなりません。非正規雇用労働者を優先して整理解雇することは合理的と扱われていますが、同一労働や有期雇用労働者の無期転換ルールなど、新たに定められる法律も今後考慮されていくことが想定されるため、整理解雇時の合理的な選定レベルを高めておくような、多人数の整理解雇を行う際は判例を多く扱う弁護士を交えて決定する必要があります。
④手続きの妥当性
十分な説明を行い、協議し、納得を得るための手順を踏んでいない場合には他の要件を満たす場合でも無効とされたケースがあります。
上記の4要件は大企業の場合のみとされ、中小企業の整理解雇時には全てが完全に満たされていなくとも認められることがありますが、バブル崩壊やリーマンショックによる経営不振で多くの会社が整理解雇を行った際、多くの弁護士がアドバイスを行っていたにも関わらず裁判で多くの企業が敗訴同様となった例を考えると、外部のアドバイスも聞きながら整理解雇の妥当性レベルを高めておく必要があります。問題社員を整理解雇する場合にも上記同様のプロセスを考慮して退職を促すのが安全です。
懲戒解雇
会社が行う懲戒処分で最も重いものを言います。懲戒解雇は会社の通常の範囲の業務命令に背く、社内の秩序を乱す場合などに行われます。但し、「常識的に懲戒解雇」が認められるとは限りません。(労働契約法16条)
なぜなら解雇する場合は、就業規則に懲戒解雇の行為について具体的に規程していることが前提条件となるため、基本的には【就業規則の無い会社で解雇はできない】ことになります。就業規則整備の最も重要な点の一つはこの解雇権の行使にあるとも言えます。
普通解雇
上記の整理解雇、懲戒解雇にも該当しない一般的な解雇を言います。懲戒解雇に該当する場合には退職金の不支給や即時解雇が要件を満たせば認められますが、それら厳しい処分にまで至らないが解雇に相当する場合に使われます。懲戒解雇にされれば転職に影響するから普通解雇にしてあげる、などの理屈は今はあまり通用せず、解雇に相当の理由が必要なことはいかなるケースでも同等のため、諭旨解雇(ゆしかいこ)のような促した解雇を受け入れる場合などもこれに該当します。
解雇を認められる例
・立場を利用して性的関係を強要した
・会社の金品を横領し、本人もその事実を認めている場合
・取引先から多額の個人リベートを受け取っていた場合
・解雇する際に十分な金銭補償を行った場合
・無断欠勤が長期間に及び、連絡の手立てがない場合
・職務を遂行するために重要な経験・能力・経歴に詐称があった場合
・試用期間(14日以内)、有期雇用期間の満了(雇止め)
・会社の社会的信用を著しく低下させる犯罪行為
就業規則上の懲戒規程とその行為の重要性を考慮して妥当であれば十分解雇できるケースがあります。入社直後に悪質な問題社員と発覚した場合にはあまり先延ばしせず、試用期間のうちに解雇することが実務的には安全といえそうです。試用期間の次に解雇できるタイミングは、契約社員のように有期雇用期間の満了を理由として雇い止めしますが、勤務期間が長くなるほど解雇は難しくなります。
解雇が認められない例
・仕事の覚えが遅い
・他の従業員と比較して劣っている
・売上成績が悪い
・たまの遅刻や欠勤
・正当な内部告発を行った
・多重債務等による会社への取り立て、給与差押え
・横領等不正行為の証拠がない嫌疑時点
・業務に関連しないプライベートの理由(不倫や酒席での喧嘩など)
・異動の命令に従わない
※感染症対策として出勤調整やテレワーク、マスク着用や消毒に非協力的な従業員や、医療従業者のワクチン接種拒否などの場合には解雇が認められたケースもあります。
解雇の手続きを誤った場合
営業成績が悪い、会議に遅刻した場合に「明日から来なくていい」と発言したり、助成金の不支給や行政機関の調査を恐れて本当は「会社都合解雇」なものを「自己都合退職」として扱うことは誤った手続き方法です。
特に中小企業では
・長時間密室で退職届の提出を迫った
・繰り返し退職届の提出を迫った
など、『退職届を提出させれば勝ち』などと誤った情報を鵜呑みにして事実上のクビ(解雇)を行い大きなトラブルとなることが多発しています。近年はスマートフォンの普及によって録音(録画)も容易となり、証拠のひとつとして利用されるだけでなく、SNSで拡散されれば会社の悪評は永遠に残ります。
まず、解雇に相当する場合の「懲戒解雇」を行う場合は労働基準監督署の認定(解雇予告除外認定)を得た場合のみ即時解雇が認められますが、それ以外の場合には解雇予告手当(平均賃金の30日分)の支払が必要となります。中小企業では解雇予告手当を支払っていない会社が多いのが実情ですが、労働者が労働基準監督署へ申告すると会社に連絡が入り、無視を続けた場合には事実確認の調査(臨検監督)で監督官が来所します。会社の事情が考慮されずに違反切符(是正指導)を切られるばかりか、不当解雇を争われた場合には和解金が数十万円~数百万円に上ることも珍しくありません。
やむを得ず解雇を検討する場合
従業員に問題が無くても、新型コロナ時の借入金返済や円高、物価高による取引先の不振によって事業活動の縮小を余儀なくされることもあります。解雇に至らなくとも、長引く不況で事業主の自腹をもって事業を維持している事業所も多く、解雇しないことに越したことはありませんが、きれいごとだけで経営はできません。社会の在り方が大きく変わる中、生き残りをかけて行うリストラクチャリング(事業再構築)としてまず人員整理を選ぶこともやむを得ません。解雇に関する法的ルールを踏まえて、大きなトラブルや従業員に恨まれるような禍根とならない「円満な解雇」となるよう努力し、早期の回復を目指しましょう。小さい事業者では弁護士や社労士に委託する余裕がないのが一般的ですので、自社だけで解雇を実施する場合には、最低限でも従業員との話し合いの日時や内容を記録するなど、「経緯を記録」して保管しておくと後の訴訟やトラブルのリスク対策になります。
おわりに
経営は常に不安定で、新型コロナ禍中の借入金返済や円高物価高人手不足、その他仕入れ先などサプライチェーンの倒産や自然災害、海外企業の参入による外的要因によってやむを得ず解雇を選択しなければならないケースあります。しかし、少ない人員枠で最高のパフォーマンスを発揮しなければならない中小企業にとって、モンスター社員など問題社員を放置し続けることは無駄なコストの垂れ流しであり他の従業員に悪影響を及ぼすばかりか、経営者自信の責任問題を追及されることにもなりかねません。企業として最大の努力をおこなっているものの、なかなか改善が進まず頭を悩ませている場合には『解雇しないことだけに固執せず』、外部の専門家に相談してみると意外とすんなり解決することはよくあることです。事業主が思い悩みすぎて精神を病んでは元も子もありません。
しかし、強権的な解雇は従業員を委縮させ、組織のモチベーションを下げることにもなりかねません。どうしても解雇しなければならないときにも、後でトラブルとならないような穏便な退職勧奨など円満解雇を検討するほか、従業員が働かない、働けない理由に耳を傾け、たとえばハラスメント防止研修を受講させたり、長期休暇を取得させたりなど様々な角度からもう一度社員を活躍させる方法について、専門家を交えて考えることは先に述べた解雇要件としての解雇回避義務にもつながります。解雇に相当すべき従業員を解雇することに異論はありませんが、仮に無能なだけであればマネジメントに問題があるかもしれません。今後中小企業の採用難・人材不足はますます悪化すると多くの調査会社が分析しています。また新たな従業員を採用すればいいと思っていても応募者が続くとは限りません。やはり、今いるすべての従業員を個々の能力に応じて最大限発揮してくれるような組織運営を追求し、あらゆる方法を使ってもダメならば穏便に辞めていただくことも必要です。
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